フロー制御は、有害温室効果ガスの排出問題に、どのようにソリューションを提供するのか?
世界中の政府、ビジネス、そして個人にとって、気候危機が重要な懸念分野であることは否定のしようがありません。気温上昇、異常気象、水・食料問題を考えると、早急な対策が必要であることは明確です。2015年のパリ協定では、気候変動による壊滅的な影響を防止するため、温度上昇を2℃未満、理想は1.5℃を上限とすることが定められました。この協定以降、政府は、COP26サミット(2021年11月グラスゴーで開催)等で、この重要性を再確認しました。ここでは、世界の首脳達が、1)ambitious emissions reductions by 2030(野心的な2030年排出削減目標)、2)phasing out unabated use of coal(削減対策なしの石炭火力の使用禁止)、3)encouraging investment in renewables(再生可能エネルギーへの投資の奨励)、4)significantly reducing methane emissions(メタンの排出を大幅に削減)を約束しました。石油&ガス業界が、必要不可欠な役割を担っているのです。
不要なガスの排出を削減し、石油&ガス事業での電動アクチュエータの活用に着目することは、パリ協定やCOP26の目標、そしてNet Zero by 2050¹(2050年までに正味ゼロ排出)に向けた急発進における重要な第一歩です。
伝統的に、石油&ガスアプリケーション(特に、遠隔地のウェルヘッド等、隔離地や人が近づくことのできない環境)では、生成ガスを動力源とするスプリングリターンアクチュエータやダイヤフラムアクチュエータによる制御が好まれてきました。生成ガスではなく電力を利用したフロー制御では、随伴ガスの排出を削減、またはゼロにすることが可能です。このような取り組みによって、環境負荷の少ない事業活動と、世界的に高まる排出制御規制の遵守が実現されるのです。
石油&ガス分野におけるメタンの排出
効率的なフロー制御が、如何にしてエネルギー生成におけるガス排出を減らす、またはなくすのかを考察する前に、ガスの排出の仕組みと、考えられる悪影響について理解する必要があります。近年、最も注目を集めているガスはメタンです。メタンは, (排出)量では、二酸化炭素に次いで2番目ですが、地球温暖化係数が高いため(二酸化炭素の28倍)、環境に不均衡な影響をもたらします。
現在の、削減対策なしのメタンの排出量は、排出削減及び気候危機回避のための必達目標の達成を考えると、危機的水準です。人由来のメタンの約20~25%が、石油&ガス産業を発生源としていますが、これらの大半は上流アプリケーションで発生しています。生産拠点や、移送・供給システムから漏れや排出が発生しているのです。また、メタンは、一般的に、ベント(排気)や、ガスフレアといった漏洩排出物を生み出します。そのため、空気式フロー制御は、アップグレードする設備を決定する際の、当然の選択肢となっています。如何なる場合においても、電動アクチュエータに交換することで、温室効果ガスの排出を削減またはなくすことが可能となります。
電動化
電動化は、石油&ガス事業における排出抑制の基礎となるものであり、脱炭素化への取り組みにおいて必要不可欠な役割を果たしています。 再生可能エネルギーへの注目度が高まっても、人は今後数年間は石油やガスに依存する可能性があります。そのため、できるだけ効率的に石油・ガスを生成し、排出量の削減、及び、環境への影響を軽減する必要があります。国際エネルギー機関(IEA)は、「排出量削減のために強固で効果的な対策を取ることが可能な生産者は、温室効果ガスを多く排出する資源よりも、自社の石油・ガス資源が選択されるべきである、と確信をもって主張することができる」と述べています。フロー制御事業においても同様のロジックが当てはまります。即ち、低排出またはゼロ排出のフロー制御が実現可能な石油&ガスアプリケーションのアクチュエータは、現在・将来を問わず、エネルギー供給の主導的な役割を果たすために、理想的な位置づけにあります。
石油&ガス産業は、バルブが多用される分野であり、それらバルブの制御のためのアクチュエータが、現場の至る所で、原油、ガス、コンデンセート(超軽質原油)、水の流量を制御しています。上流アプリケーションでは、伝統的に、ガスを動力源とするアクチュエータを使用しています。フロー制御に空圧式アクチュエータを用いることで、環境に有害なガスを排出するリスクがあります(場合によっては、確実に有害ガスを排出することになります)。現場のアクチュエータを電動式に変更することで、フロー制御の効率化、排出量の削減、環境パフォーマンス及び安全性能の向上が可能となります。電動アクチュエータは電源しか必要とせず、ガスの排出や漏洩がないため、バルブを多用する産業においては、排出量削減のための重要な設備なのです。
上流における漏洩の削減
上流アプリケーションは、温室効果ガス排出の原因となる、漏洩量の多い既設の空圧アクチュエータからアップグレードするための機会が最も多いため、電動化が特に重視される分野です。
最近のフロー制御の電動化の一例として、北海の油田にインテリジェント電動アクチュエータを設置し、全電動プラットフォームの構築を支援しました。Johan Sverdrup油田は、ノルウェーの大陸棚における最大級の海上開発プロジェクトの1つであり、電動化計画の一環として、電動アクチュエータを使用して、温室効果ガス排出量の少ない、または排出しない方法で石油を生成しています。設置した電動アクチュエータは、現場の採掘、ライザー、プロセス、居住区のあらゆる場面で、フロー制御を行っています。
既設の空圧式アクチュエータから新型電動アクチュエータへのアップグレードは、益々一般的になっています。電動アクチュエータ設置のもう1例として、ベルギーにおける複数の天然ガス減圧ステーションが挙げられます。エネルギーインフラのグループ企業であるFluxysが運用する現場では、既設の空圧式アクチュエータを電動アクチュエータに交換しました。交換前の空圧式アクチュエータは、制御媒体としてガスを使用していたため、そのガスが大気中に排出されていました。空圧式から電動式への更新・レトロフィットは、有害な漏洩や逸散排出に厳正に対処するものであり、石油&ガス事業における電動化の中核的信念です。
中流における漏洩の検知
中流部門では、逸散排出が発生する可能性があります。 しかし、パイプラインが数百、数千マイルに及ぶ場合は、あらゆる漏洩を速やかに検知し、対処する必要があります。このような中流アプリケーションの効率と安全を維持するためには、 遠隔のパイプラインの故障箇所を迅速に隔離する信頼性の高い技術が必要不可欠であり、このような課題は、電路遮断(ELB)装置とフルードパワーアクチュエータとの組み合わせにより、対処することが可能です。ELBはパイプラインの圧力を監視することにより、パイプラインの破裂または故障個所を素早く特定し、この部分の隔離を容易にします。 圧力降下率(RoD)や圧力上昇率(RoR)測定値と、オペレータが設定しておいたリミットとを比較することで、マイクロプロセッサによる電磁弁の起動が可能となり、この電磁弁によって、アクチュエータ回路のマニホールド内の配管ガスを動力源としたバルブの閉作動や、パイプラインの異常箇所の遮断が可能となります。この種の技術は、パイプラインの故障時に速やかに機能し、パイプラインの適切な箇所の隔離や、安全、金銭的、環境への有害な影響のリスクを低減することが可能です。
下流における漏洩の削減
下流のアプリケーションでは、漏洩排出物が排出されてしまう機会が何度も訪れます。 この種の漏洩に対処しようと努力を重ねることは、このような排出を削減する上で、非常に良い影響をもたらします。例えば、ガス分配チャネルでは、しばしば、メタンが排出されます。 天然ガス減圧ステーションは、アメリカ全土でよく見かけます。このような減圧ステーションでは、下流のガス圧力を制御して、国内の顧客に提供していますが、圧力を調節すると、動力源のメタンが大気中に排出されてしまいます。大抵の場合、高ブリード(漏洩量の多い)のI/Pポジショナを搭載した空圧式制御装置が用いられているために、このような事態が発生し易くなるのです。これにとって代わるのが電動アクチュエータであり、電動アクチュエータはレギュレータに直接取り付けて、圧力設定値を自動調節することが可能です。電動アクチュエータは遠隔操作が可能で、操作中に温室効果ガスを排出したり、排ガスが発生することはありません。また、持続的な漏れが発生することもなく、動力を連続供給する必要もありません。
結論
気候危機対策のための取り組みが世界中で拡大していますが、石油&ガス事業における排出量削減への取り組みは、このような世界的取り組みの一環です。石油&ガス事業(特に上流) は、エネルギー部門の脱炭素化の一環として、焦点を当てるべき重要な事業であると認識されています。空圧式アクチュエータから電動アクチュエータに変更し、フロー制御システムの電動化を図ることは、メタンや二酸化炭素などの有害物質の排出を減らす上で、非常に重要です。